アートの仕事 in Hollywood

ハリウッド・キャラクターデザイナー片桐裕司による、ハリウッド映画の仕事の話、絵や造形の上達の仕方・プロになりたい人などに役立つ情報を発信しています

デッサンは美術の基本なのか?

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1. デッサンは必要なのか?

美術の基礎はデッサンだという言葉をよく聞きます。

 

そしてそれによって、今までデッサンをしてこなかったから自分の絵や造形に自信がないとか、上手くなるためにはデッサンをしなければいけないのかというプレッシャーを感じている人が多くいます。

 

多くの人がデッサンに対してコンプレックスを持っているようです。

あれこれ言う前に、私のデッサン経験をお話ししたいと思います。

 

粘土で造形することを生業としているこの私。
自慢じゃないですが、ハリウッド映画の主役級のキャラクターを任されたりもします。

 

しかしながら、ぶっちゃけ自分の生涯デッサン枚数をここに告白しますと、

それは

3枚(誤差+ー1)

画像1

高校の時の選択科目は音楽だったのですが、3年生になってクラス変更ができたので、美術をとることにしました。

 

そこで初めてデッサンなるものの存在を知りました!

しかしながら、描いてはみたもののどうもうまくいきません。

 

そして正直全く面白くなかったです。

 

面白くないものが長く続くわけがありません。

 

結果として、この高校3年の頃に描いたデッサン3枚ほどが、私の生涯デッサン枚数となったのです。

 

結論を言ってしまえば、造形が上手くなるのにデッサンは特に必要ありません。

 

場合によっては絵に関してもそうです。

 

私がアーティストとして仕事をしているアメリカでは、私の知りうる限り誰もデッサンはやっていないのです。

 

しかし日本ではデッサンが全ての芸術活動の基本だと思われている節があります。

果たしてそうなのでしょうか?

 

私が主催する彫刻セミナーにデッサンがめちゃくちゃうまい人物が受講した事があり、彼はとてつもないデッサン力を持っていましたが、彫刻はからっきしだめでした。

 

そこでデッサンが上手くても立体は出来ないのか? と言う疑問が生まれました。

 

しかしながら、デッサンがめちゃくちゃ上手い人が初めて彫刻をしたら、造形もすごくうまかったと言う事例もあります。

 

この違いはなんなのでしょうか?

 

デッサンは多くの技術を必要とします。

 

形を捉える目や測り方、鉛筆(木炭)の微妙な強弱などのテクニックなど。

そして練習を重ねていけば、洗練された模写能力が身についていきます。

 

しかしそれが出来たからと言って、自由自在に思ったものが描けたり造形できたりするのかと言えばそうでも ありません。

 

なぜなら、ありのままを見たままに描くという【技術】だけに集中してしまい、形を理解するという【知識】を得ることを疎かにしてしまってるからです。

 

例えると、この像を反対から見たらどうなるのか、下から見たらどうなるのかという想像が出来ない。

 

表題の、上達するのにデッサンは必要か? と言う問いに対する答えですが、これは職種によっては必要で、必要でない職種も結構あると言う少し曖昧な答えになります。

 

しかしデッサンをやらなければ、一定のレベル以上に上手くならないのか? と聞かれれば、明確に否定しておきます。

 

デッサンをやらなくても皆さんの絵、造形は上手くなります。

じゃぁ何のためにデッサンがあるのか?

2. 何故デッサンするのかを考える

何を勉強するにもそうですが、

何故それをするのか?
何を身につけたいために勉強するのか?

を知ることが大事です。
では何故デッサンを勉強するのか?

私はデッサンをろくにやってこなかったので、これは私の個人的な意見になると思いますが、

⚫︎3次元を2次元で表現する技術 
⚫︎3次元の形の理解(知識)

という技術と知識を得るためだと思います。

観察力を鍛えるというのもありますが、これは知識の部類とします。

 

しかしながら多くの人が、【こうやって絵を描く】という「技術・アウトプット」のやり方だけに囚われて、ありのままに観ることにこだわりすぎて(大事な事ですが)、立体はこうなっているんだという「知識・インプット」を得ることを疎かにしてしまっている人が多いと感じています。

 

そういう「技術」だけを磨いてきた人たちは、前回書いた、デッサンはうまくても彫刻をしたら出来ないという人になり、

形を「理解」しながらデッサンをしてきた人は、彫刻をしてもそこそこ出来るのだと思います。

 

石膏デッサンなど、せっかく過去の偉大な彫刻家たちが遺した分かりやすい人間構造の造形物を目の前にしているのに、人間の形の知識を得ないなんて実に勿体無いことです。

 

多くの美術の教育機関がなぜデッサンをさせるのかという理由が、「デッサンが出来るようになるため」ということに収まってしまっているのではないかと感じております。

つまりデッサンのためのデッサンです。

 

美大に受かるためという目的のためにデッサンがあり、テスト合格の基準として、及第点を身に付けるためにデッサン教育がある。

 

そんな印象があります。

 

そこには、「デッサンによって何が出来るようになりたいのか」が抜けているのではないかと思います。

 

【何のため】がわかった時に初めてデッサンが基本になりうるのだと思うし、逆にデッサンが必要のない人も出てくるのです。

 

デッサンで訓練する、

観察する目
全体を捉える目
大きな塊からじわじわと細かくしていくやり方

それらの能力をデッサンを通じて鍛えたら自分の目指す仕事に大いに役立つと思うのであればすればいいのです。

しかし、そのエッセンスを理解できれば、造形だけしていてもその能力は鍛えることはできるし、自分の描きたいものをひたすら勉強して描いていっても、その能力は上がるのです。

 

3. デッサンで得たい能力を理解する

このようなエッセンスが理解できるのであれば、円錐やボール、ピーマンや石膏像を模写する必要はないのです。

 

これが基礎だからやらなければいけない、と無理やり努力している人達、

一旦デッサンの勉強をやめていいですよ。

 

そして好きなもの、上手くなりたいものを思い切り造るなり描くなりしてみましょう。

 

そして上達していく過程で、今やってることがもっと上手くなりたい、そのためにはデッサン力をつけた方がいいと自発的に思えた時にやってみたらいいのです。

 

訓練方法としては非常に優れている技法だとは思うので。

その時はデッサンをポジティブに捉えられてるはずなので、上達も遥かに早いはずです。

 

私がこのような記事を書いたのは、何もデッサンに反対しているからではありません。

それを勉強していないからって、引け目や劣等感を感じる必要が全くないということを伝えたいからです。

 

仕事内容によっては必ずしも必要な能力でもないし、必要性を感じたとしても今からでもできるのですから。

 

しかし美術の基礎=デッサン という考えは明確に否定しておきます。

 

では何を持って基礎としたらいいのでしょうか?

多くの生徒を指導していく中で、こっちのが絶対効率いいじゃん! という勉強方法を発見しました。

 

4. デッサンよりも彫刻

タイトルの通り、立体を理解するには立体を作るのが一番効率の良いやり方です。

 

デッサンを通じて立体を理解するのであれば、初めから立体を作ったほうが理解度は断然早いのです。

 

実に当たり前のことなのです。

 

もちろん形を理解するという【知識】を飛躍的に増やせるというのが大きな要素で、絵を描く【技術】に関してはもちろん絵を描かねばいけません。

 

しかしながら、面白いことに彫刻が上手くなると、自然にデッサンがもっとできるようになってきます。

 

形を立体的に捉えられるようになり、頭の中に、その形の立体が浮かんでくるようになるからです。

 

頭に浮かんだ3次元の形を2次元で表現すると、自然に立体感を出せるようになってくるのです。

 

多くのイラストレーターや漫画家が私のセミナーで彫刻にチャレンジしていますが、皆一様に、セミナー後は絵が格段と上達したと言ってくれています。

 

皆それぞれ上達したいもの、描きたいもの、作りたいものが違うと思いますが、「デッサンは基礎だからやらなければいけない」という強迫観念でするのではなく、単なる上達方法の一つとして捉えればもう少し気楽に出来るのではないでしょうか?

デッサンは義務でなく権利なのです

 

次回:才能について

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