アートの仕事 in Hollywood

ハリウッド・キャラクターデザイナー片桐裕司による、ハリウッド映画の仕事の話、絵や造形の上達の仕方・プロになりたい人などに役立つ情報を発信しています

効率的な上達方法

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これまでは上達するための【考え方】に重点を置いて書いてきました。

ここからは、どのように勉強すればいいのか【やり方】を書いていきたいと思います。

私が職業柄メインでクリエイトしているのは、エイリアンやクリーチャーなどの架空の生き物ですが、時折人間のダミーなどを作る機会もあるので、造形物が本物の人間に見えるレベルまで造形しています。

私のセミナーでも人間を学びたいという人が多く参加しているというのもあり、上達方法は人間編と、クリーチャー・キャラクター編に分けて解説したいと思います。

上達法:人間編

今まで私の『彫刻セミナー』では2000人近くの受講者を指導してきました。

これだけの人数をみていると、多くの人が陥りがちな間違いや勘違い、そして上達を阻んでいる誤った見方、考え方など、多くのことに気付く事ができました。

それを踏まえた上で改良を重ねながら実施しているクラスに、『クイック造形クラス』というのがありまして、これが非常に大きな効果をあげています。

フィギュアと顔の2種類のクイック造形クラスがあるのですが、これがどういうものかというと、顔の造形、もしくはフィギュアの造形を1日4体くらい作るクラスです。

多くの人は、そんなことできるのか? と最初は思うのですが、出来る出来ないに関係なくまずやってみるのです。

というよりやらざろうえない状況に追い込みます。(笑) 

 

1. 大雑把に捉える 

まずは人間の構造の大雑把な形をレクチャーします。 

この『大雑把』というのが非常に重要で、
大概の初心者は、顔であれば目と鼻と口に注目してしまい、フィギュアであれば筋肉に注目してしまいます。

ものすごく当たり前に聞こえるのですが、実は目と鼻と口を見ようとする事、筋肉を見ようとする事がいいものを作る妨げになっているのです。

どういうことでしょうか?

下の写真をみてください。

これが誰だかわかりますか?

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正解はトムクルーズアントニオ猪木です。

彼らを知っているのであれば、ほとんどの人が答えられたと思います。

 

ここで考えて欲しいのですが、なぜこれを彼らとわかったのでしょうか?

目や鼻や口の形なんてまともに見えません。

ちゃんと見えていないのに誰だかわかるのです。

 

これはこの人達が出している『雰囲気』によるものです。

そして我々は、その『雰囲気』に対する、その人の『印象』を持っているのです。

 

2. 雰囲気・印象を読み取る

それはどういうことなのでしょうか?

例えば目を瞑って、身近な人の顔を思い出してみてください。

恋人でも推してるアイドルでも親でも誰でもいいです。

はっきりとした形はわからないまでも、なんとなくの顔が浮かびますよね?

なんとなくこんな髪型、なんとなくこんな目と口、なんとなくこんな輪郭。

といったように、『なんとなく』ではありますが思い出せるのです。

 

これがあなたの持つ、その人に対する『印象』です。

この人はこういう顔なんだ、という印象を持っているのです。

 

言い方を変えると、あなたはこの人の顔を『認識』しているということになります。

『認識』は、ただ見えるということと違います。

 

認識できているので、その人に会ったときに、あなた誰だっけ? とならないのです。

その人の顔を見て、その人だとわかるのですから。

 

3. バランスをとる

まずは目や鼻や口を細かくする前に、全体のなんとなくのバランスを捉えます。

このバランスが、当たり前ですが最も重要なことです。

繰り返します。

バランスが最も重要なことです。

いくら目や鼻や口をリアルに出来ても、バランス的な位置や大きさが間違っていたら本人にならないのですから。

それを、その人の印象を意識しながら行います。

 

この人はこんな感じの顔だ、笑う時の目が三日月目、口がいやらしい、ほっぺの丸みがキュートだ、顎がこんな風に尖ってる、メチャ垂れ目、鼻が広がってる、などなど、その人の印象を言葉にして、みたままというより、印象を意識するのです。

 

これはデッサンなどをきちっとやってきた人たちからは反感を買うかも知れません。

デッサンは見たまま、ありのままを正確に表現する練習なのですから。

それらはもちろん技術として持っていた方が良いものなのですが、
私のこの印象を捉えるという考え方は、コマーシャルアートのプロとして仕事をしてきて培ってきたものです。
というのも、ありのままに、自分の気持ちを込めずに見たままを描いたり作ったりしても、現代はCG技術の発展により、写真をそのまま絵にできたりスキャンして立体にできたりしてしまいます。

いくらありのままを表現しようとしても、絶対に写真やスキャンの正確さには叶わないのです。

機械的に出来ることであれば、それができてもどんどん淘汰されてしまいます。

だから自分の持った印象を意識して表現することは機械との差別化を図る上で、そしてプロとして生き残る上で大切な要素になっていると信じています。

 

4. 時間をかけない

話は少しそれましたが、印象を意識してその人の顔の全体のバランスを捉える。

それを、絵であれば15分くらい。

造形であれば、最初は1時間半くらいを目安に行います。

最初は酷い物が出来るかもしれませんが、それでも時間が来たら強制的に終了します。

そして新たにまた行います。

時間内にある程度雰囲気を出せるようになるためには、細かい所に時間をかけてはできないという事がわかってきます。

上手くできない人のほとんどの原因が、全体の形ができていないのに細かくしてしまう事なのです。

これを強制的に制作時間を短縮する事によって、細かくできなくしてしまうのです。

もちろん私のような人が見てくれるのが好ましいのですが(笑)、一人で練習していても、多少時間はかかりますが、同じ間違いを何度も繰り返していけばいい加減その事に気づくのです。

それを、一つの作品にずーーーっと時間をかけて、ひたすら修正することを繰り返してしまうと、次に作るときに最初の形を取る段階で、前回は何を間違っていたのか忘れてしまい、その分成長が遅れるのです。

4. なんとなくの雰囲気を捉えながら数をこなす

最初の段階では仕上げようとしなくても全く問題ありません。

むしろ仕上げない方が良いくらいです。

とにかくひたすら全体の形をとる訓練をします。

 

何よりも大切なのはバランスです。

プロポーションと強弱。

影の強さは形の奥行きとも関係があり、強弱もプロポーションの一要素であるとも言えます。

兎にも角にもプロポーションが捉えられるようにしていきます。

 

それから大事なのは数です。

数をこなさなければ上達はありません。

やればやるほど腕が上がる事を自覚して励むと良いです。

ただし、初期の記事で書いたように、何も考えず闇雲に数をこなしてもいけません。

毎回プロポーションを意識しながら、考えながら数をこなすのです。

どんなに綺麗な影を描くことよりも、どんなにリアルなシワを作ることよりも、どんなに魅力的な目にすることよりも、配置、すなわちプロポーションをキチッととることです。

プロポーションが間違っていれば、上記のものがどんなに良くてもちゃんとならないのです。

一番大事なことはプロポーション
何よりもそれがちゃんとできるようにすること。

そしてプロポーションをとりながら意識することは、前に書いた、
“雰囲気を捉える” ということです。

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なんとなくの形を捉えながら、その人のなんとなくの雰囲気を出してみる。

目全体が上向きなのか下向きなのか、なんとなくにやけてほっぺたが膨らんでるのか、少しげっそりしてるのか。

面長なのか、丸っこいのか、顎がシャープなのか。

額は広いのか狭いのか。

なんとなくの特徴は誰もがあるはずです。

それをなんとなく捉えていくのです。

唇のラインやまぶたや鼻翼の形など詳しく見てはいけません。

例えば顔にストッキングをすっぽり被せたような状態をみるのです。

 

それが顔のボリューム感なので、それがなんとなくできていなければ、どんなにリアルな目や鼻や口をつけてもしっくりこないのです。

はっきりと見ない目を養うために、繰り返し練習してみましょう。

矛盾に感じるかもしれませんが、上手な人は、はっきり見えなくする目を訓練によって持っているのです。

最初の方で紹介したボカした画像をボカしてない画像から読み取る目です。

ちなみによく使われている方法は、目を細めて見るやり方です。

そうすれば細かいものが見えなくなり、大雑把な塊がなんとなく見えます。

それを活用するといいですね。

 

とにかく常に全体を見て作っていく目とやり方を数をこなしながら養っていきましょう。

まずは短期間、短時間で数をこなす。

これがその後の成長のスピードを飛躍的なものにできるのです。

 

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