アートの仕事 in Hollywood

ハリウッド・キャラクターデザイナー片桐裕司による、ハリウッド映画の仕事の話、絵や造形の上達の仕方・プロになりたい人などに役立つ情報を発信しています

架空の生き物をリアルにするためには

f:id:samuraihk:20210307234741j:plain

リアルな架空の生き物をデザインするために必要な事。

それは解剖学です。

でも想像上の生き物だったらそんなものにこだわらなくたって良いじゃんか。

実際存在しないんだから。

と言いたい人もいるかも知れませんが、そんな人たちは前回の記事を読んでもらえればと思います。

1. 解剖学の重要性

解剖学、つまり骨や筋肉の仕組みを知る事は、空想上の生き物を表現する上で非常に重要な要素になります。

例えば人の背中に鷲から切り取った大きな翼をくっつけても、骨や筋肉がどの様に羽の羽ばたきに作用しているかを表現できないと、実際に飛べそうなリアリティは出せないのです。

まさに取ってつけた様に嘘臭く見えるのです。

尻尾の表現でもそうです。

よく私のセミナーで生徒が尻尾を作る時、なんとなく細長いものをつけてるだけということがよくあります。

しかし実際の生き物をちゃんと観察すると、脊椎とそれを囲む筋肉の形がちゃんと見て取れます。

解剖学を意識することにより、形をもっと読み取れる様になるのです。

蛇などでもちゃんと観察すると、脊髄とその周りの筋肉の形がちゃんとあり、体の曲げ方による筋肉の作用もちゃんと見て取れるのです。

胴を輪切りにしても、断面はまん丸ではないのです。

リアリティの表現には解剖学の知識が必要不可欠になり、それ無くしてはリアルに作ることは不可能なのです。

 

しかしながら同時に解剖学にはあまりこだわってはいけません。

2. 解剖学の弊害 

すみません。

とんでもない矛盾を今書きました。

そうなのです。

解剖学にあまりこだわりすぎるのも問題なのです。

これは私自身が陥ってしまった罠でもあります。

 

若い頃人間と解剖学を一生懸命勉強、練習していた時期がありました。

しかし我々の仕事は、人間を作るよりも、クリーチャーやエイリアンなどのキャラクターを作ることが多いのです。

それらを造形する時に、人間の骨格がこうだから、筋肉がこうだからと理屈をこねて作っても、人間の見た目からなかなか離れられなくなり、実につまらないものしかできなくなってしまったのです。

これはコマーシャルアートに生きる我々には致命的なことであります。

面白いものが生み出せないのですから。

ここに知識の弊害というものがあります。

 

知識が増えると、“これはこうだから、こうでなくてはいけない“ という頑固な頭になってしまいがちなんですね。

“こうでなくては“、”こうあるべき“ に囚われて、本来自由であるべき想像力も、自分でリミットをかけてしまうのです。

それが悪化すると、「リアリティは本当はこうなのに、あいつのやってることは間違ってる」とか他者の批判をし出すのです。

3. デザインがカッコ悪ければボツ

テーマがもしも、ドラゴンを解剖学的に検証しよう!とか言うのであればそれでもいいのですが、我々がクリーチャーなどをデザインする時は、映画やテレビに出ると言うのが前提になります。

そうなると、当然リアリティーも大切なのですが、デザインのかっこよさがどうしても必要になります。

いくらリアリティーはこうだと主張しても、カッコ悪かったらボツになるし、人気も出ないのです。

じゃあどうすればいいんだよ! という声があると思うので解説します。

4. ファンタジーキャラのデザインの考え方

架空の生き物をデザインする時は、まずは好き勝手やっていいのです。

頭をもっとデカくしたれ。

手の関節増やしたれ。

アバラをなくして胴体は軟体動物にしたれ。

ケツにツノつけたれ。

肛門を菊ではなく薔薇にしたれ。

などなど

自分がいいと思えるのであればなんでもいいです。

しかしなんでもいいと言っても、自然界(地球の)にはバランスというものが存在します。

ここをデカくしたら、あっちの方もデカくないとバランスが取れないとか、ここを曲げたら、もっとこっちを曲げなきゃバランスがおかしいとかいう感覚があるのです。

それを無視すると非常に不自然になり、リアリティーが出なくなります。

そのバランスを守った上で、好きな様にやってみるのです。

デザインがメインで、解剖学はその次になります。

我々は学者ではないので、“それっぽく” 見えればなんとかなるのです。

だけどもデザインがダサかったら、解剖学がちゃんとしていてもどうにもならないのです。

この優先順位が非常に重要で、解剖学に振り回されるのではなく、自分がやりたいデザインを中心に置いて、解剖学はツールとして使うというのが非常に効率よく、その上苦しさのないやり方です。

※ちなみに化石などから恐竜など古代の生物を再現するというアートも存在します。そちらに関してはデザインのかっこよさよりも、徹底的に解剖学に基づいたリアリティが必要になります。

そこで一句

勉強は すれどもそれに とらわれない。

それがコマーシャルアートの解剖学に対する良いアプローチであると思います。

そしてその結果、カッコよくリアルなものができてくるはずです。

勉強してもそれにとらわれず、”いいデザイン”という目的のために使いこなすのです。

いざとなったら知識を捨てる勇気も必要なのです。

5. 正しい解剖学を求めない

矛盾するようですが、これは非常に重要なことになります。

よく聞かれるのが、架空の生き物を作るとき、”何が正しいのか、何が正解なのかわからない”ということです。

では正解は何か?というと、

正しいファンタジーキャラなど存在しないということです。

どういうことかと言うと、それは実在しないからなのです。

実在しないものに正しい形などないのです。

当たり前といえば当たり前なのですが、多くの人がこれを追い求めて永遠と悩み続けているのです。

作り物である以上、正しい作り物など存在しない。

これが大前提になります。

 

では何を拠り所にして作ればいいのか?

と言うことになりますが、答えを言えば、実際に生きているように見えるのか?ということになります。

今はものすごい量のキャラクターがネットを見れば溢れかえっているので、それらのリアルなキャラを真似てみるのが近道かと思います。

 

もう一つは、どんなキャラにするのかまず自分で決めることです。

何も考えず、なんとなくカッコよくしようとデザインをこねくり回してキャラを作っていくと言うよりも、”力持ちでおっちょこちょい”とか、”力は弱いけどずる賢い” とか最初にしっかりとした設定を決めてみることです。

すでになんとなくイメージが湧いてきたのではないでしょうか?

そしてデザインするキャラが自分の設定通りになるような形を考えるのです。

そして最終的にそのキャラが自分の設定した通りに見えるのか?

それが一つの正解ですね。

外に答えがあるのではなく、答えは自分の中にあるということです。

正解が存在しない以上、自分の中でそれを決めなければいけないのです。

それを繰り返すうちにだんだんとデザインができるようになっていくはずなので、あれこれ悩むより数をこなすのもとにかく大事だということですね。

 

chokokuseminar.com